異色の経歴を持つ経営者がたどり着いた30年目の新天地

同社が手がけるのは、自動車用ラジエーター冷却液(LLC)の再生・リサイクル事業。「使い捨て」が常識だった業界に一石を投じ、廃液を出さずに性能を蘇らせる技術で、30年以上にわたり環境負荷低減に貢献してきました。そして昨年、村田代表は長年の製造拠点であった千葉県を離れ、山梨県昭和町への工場移転という大きな決断を下しました。アパレル、保険業界という全くの異業種から化学の道へ進み、70代にしてなお攻めの姿勢を崩さないその原動力と、新天地で見据える事業の未来とは。

Q:なぜ、製造拠点を山梨県昭和町へ移したのですか?
A:最大の理由は、事業継続計画(BCP)における「安全性」の確保です。
これまで稼働していた千葉の工場は海抜が低く、近年の気候変動による水害や、将来的な巨大地震・津波のリスクを払拭しきれないという課題がありました。お客様への供給責任を果たすためにも、より安全な場所への移転が急務だと思いました。移転先に選んだ山梨県昭和町は、海抜200〜250メートルに位置しており、津波の心配がありません。さらに特筆すべきは、その「地盤の強固さ」です。この地はかつて海底だったフォッサマグナとは異なる強固な地層が各巨大プレートに押され続けても潰される事がなく甲府盆地として残ったいわば巨大な岩盤の上に乗っているような場所です。東日本大震災の際も、この周辺は地盤沈下や液状化といった被害が極めて少なかったと聞いていましたし東京の湾岸エリアのように揺さぶられて地盤が緩むリスクが低く、「ここならどんな地震が来ても足元が崩れることはない」という確信が持てました。また、冷却液の製造に欠かせない「水」の質も決め手の一つです。南アルプスの天然水で知られるこの地であれば、不純物が少なく良質な水が確保できます。
「強固な地盤」と「清冽な水」この二つが揃った富士山の北西側こそが、当社の未来を託すのにふさわしい場所だと判断しました。

「廃棄ゼロ」を実現する再生技術

Q:主力である「LLC再生事業」のビジネスモデルを教えてください。
A:一言で言えば、「捨てずに再生する」ことで環境とコストの両立を図るビジネスです。自動車のエンジン冷却水(LLC)は、車検などで交換する際に必ず「廃液」が出ます。これを産業廃棄物として処理するにはコストがかかり、焼却すればCO2も排出されます。私たちが提供しているのは、この廃液を出さないためのソリューションです。使用済みの冷却液を全量交換するのではなく、特殊な高性能フィルターで不純物をろ過し、経年劣化で失われた防錆剤や消泡剤などの成分(添加剤)を補給します。これにより、液を捨てることなく、新品同様の性能に蘇らせることができるのです。
この技術は、もともと戦後から続く「東耀産業」という企業が研究開発していたものでした。同社の社長が亡くなられ、後継者が不在となった際、「この優れた技術を途絶えさせてはいけない」という思いから、私が技術とノウハウをすべて引き継ぎました。
廃棄コストを削減し、環境負荷も減らす。現代のSDGsの考え方を、30年前から実践してこれた事業だと言えます。

文系・異業種出身だからこその強み

Q:文系出身で異業種を経て、なぜ化学分野で起業されたのですか?
A:確かに、大学は英米文学科ですし、最初のキャリアは三陽商会でのアパレル営業、次はソニー生命での保険営業でしたから、化学とは無縁の世界にいました。
しかし、どの業界であってもビジネスの本質は変わりません。アパレルで培った「顧客のニーズを汲み取る力」や、保険業界で学んだ「目に見えない安心を提案する力」は、今の事業にも生きています。化学の知識がゼロだったことは、むしろプラスに働いたと思います。専門家が常識として見過ごしてしまうことでも、素人だからこそ「なぜ捨てる必要があるのか」「もっと合理的な方法はないのか」と根本的な疑問を持つことができたからです。
知識不足は、恥を捨てて専門家に教えを乞い、現場で泥臭く学ぶことで補いました。異業種からの参入だったからこそ、業界の慣習に囚われない柔軟な発想で、独自のポジションを築くことができたのだと考えています。

Q:新天地・山梨で描く、今後の事業ビジョンをお聞かせください。
A:災害に強い「盤石な拠点」を手に入れた今、ここをベースに事業をさらに深化させていく考えです。自動車業界はEV化などの変革期にありますが、バッテリーやモーターの熱管理など「冷却」のニーズ自体はなくなりません。むしろ、より高度な管理が求められるようになるでしょう。私は今年で76歳になりますが、気持ちはまだまだ現役です。山梨という素晴らしい環境で、既存事業のブラッシュアップはもちろん、新たな可能性にも挑戦していきたい。岩盤のように揺るぎない信念と、水のように柔軟な対応力で、次なる20年も環境課題の解決に取り組んでいきたいと思います。

「いくつになっても人はスタートラインに立てる」

これからの時代、若者に最も必要なのは「自立心」です。大企業の安定や終身雇用神話が崩れた今、組織に頼らず、自分で考え稼ぐ力が不可欠だからです。会社の看板を外した時、自分に何ができるか。常にその問いを持ち続けてください。
現代の若者は優秀です。だからこそ組織にぶら下がらず、「ないものは自分で作る」という気概でリスクを恐れず挑戦してほしい。私自身、76歳を迎えてもなお新天地でワクワクしながら新たな仕掛けを考えています。いくつになっても人はスタートラインに立てます。自分の足で立ち、たくましく時代を切り拓いてください。

Profile

村田 光蔵 Kozo Murata

株式会社ムラタトレーディング

1949年大阪府生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業。 大手アパレルメーカー「株式会社三陽商会」、ソニー生命保険株式会社での勤務を経て独立。1994年、株式会社ムラタトレーディングを設立。前身企業からラジエーター冷却液の濾過・再生技術を継承し、資源循環型社会の実現に貢献したのち、現在はケミカルを中心に製造業を継続中。販路のメインは株式会社オートバックスセブン様と株式会社WECARS様。  韮崎市に本社を据え、昭和町工場の二拠点で活動中です。

http://www.murata-trading.co.jp/index.html

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