地球の裏側まで広がる「見えない世界」へのロマン

山梨県甲府市。ここに単なる「さく井(さくせい)業者」という枠には収まりきらない、強烈な個性と哲学を持つ企業が株式会社ハギ・ボーです。温泉掘削、井戸工事、地質調査。彼らが相手にするのは、足元に広がる未知の世界。「地下1cmから下は、誰も見たことがない世界だ」と語る萩原社長は、この道一筋の技術屋でありながら、ロマンを追い求める冒険家のような顔も持っています。なぜ彼らは掘り続けるのでしょうか。
なぜ「ハギ・ボー」でなければならないのでしょうか。
お金儲けよりも「信用」と「ロマン」を重んじる、日本の職人魂に迫ります。

Q:「ハギボー」という会社は、一体何を目指している会社なのでしょうか?
A: よく「ただ穴を掘るだけの仕事でしょう」なんて思われるんですが、私たちが相手にしているのは、目に見えない地下の世界です。宇宙には望遠鏡や探査機があって、1.5km先はおろか何万光年先まで見える時代です。でも、足元の地面の下、たった1cm下のことすら、実は誰も本当のことは分かっていないんです。
私たちはそこを1,000m、1,500mと掘っていきます。そこには金・銀・銅・亜鉛といった鉱物資源が眠っていたり、太古の地層があったりするんです。土の中というのは鉱物の塊であり、地球の記憶そのものです。それを掘り進めていく作業には、宇宙旅行にも負けない「ロマン」があるんですよ。だから私は社員にも言うんです。「ただの穴掘りだと思うな、俺たちは見えない世界への冒険者なんだ」と。

大学教授も頭を下げた、「現場の真実」を見抜く眼

Q:ビジネスとして成立させるには現実的な側面も必要ですよね?。
A: 今の世の中、多くの企業が「ビジョン」を失っているように見えます。お金儲けが第一になってしまっている。中国やロシア、韓国といった国々の勢いがある中で、政治も経済も目先の数字ばかり追っているような気がしています。
私が一番嫌いなのは「お金を追う仕事」です。お金なんてものは、後からついてくるものなんです。しっかりとした仕事をして、相手の要望に応え、信用を積み重ねる。そうすれば結果として利益は出るんです。「金儲けのためにやる」のではなく、「魅力ある仕事をした結果、金になる」。この順番を間違えちゃいけない。だから私は、山梨という地方にいながらも、世界に負けないような仕事をしようと常に考えています。

Q:技術力には絶対の自信をお持ちだと伺いました。何か印象に残っているエピソードはありますか?
A: 以前、山梨のある大学の断層や地層の研究をされている先生が地質調査のデータを見に来られたことがありました。先生は「データを見せてくれ」と言うけれど、私たち民間企業の目的はあくまで「温泉を出すこと」や「水を出すこと」です。学術的なデータ収集が主目的ではありません。

ある掘削現場で、私は地層の出方を見て「ここには断層がある、ここを攻めれば温泉が出る」と確信していました。でも先生はこれまでの学説や常識で判断しようとする。そこで私は掘り出したコア(地質サンプル)を見せて、路頭(地層が露出している部分)の角度や深さとの関係を論理的に説明したんです。「先生、理論も大事ですが、ここにあるのが事実です」と。
そうしたら、その先生がサッと立ち上がって帽子を取り、「参りました。今まで生意気なことを言って申し訳ありませんでした」と頭を下げられたんです。

Q:それは「現場を知る強み」ですね?
A: 肩書きが人を仕事させるんじゃないんです。現場の土の声を聞けるかどうか。私たちはボーリングという小さな穴を通して、地球の内部と対話しているんです。いくら机上の空論を並べても、実際に掘って水が出なければ意味がありません。「100m掘って出なければ、そこで止める勇気」も必要だし、「あと10m掘れば出る」という勘所も必要。それはAIやコンピューターには真似できない、人間だけが持つ「感覚」の領域なんです。その先生に認めてもらえた時は、「ああ、嘘をつかずに真面目にやってきて良かったな」と思いました。

「掘って終わり」ではありません。命をつなぐインフラとしての誇り

Q:近年は地震などの災害も多発しています。御社の仕事は防災面でも大きな役割を果たしているのではないでしょうか。
A: 災害時に一番困るのは「水」です。飲み水はもちろん、トイレや生活用水も含めて、水がなければ人間は生きていけません。
国も補助金を出して防災井戸の整備を進めていますが、管理が行き届いていないずケースが多いんです。井戸は掘って終わりではありません。ポンプは機械ですから、メンテナンスしなければいざという時に動かないんです。
私たちは「掘ること」と同じくらい「守ること(管理)」を重要視しています。私がよく言うのは、「日本の強みは『管理』だ」ということ。海外に行くと分かりますが、日本ほど道路が綺麗で、インフラが整っている国はありません。それは誰かが毎日、地道に管理しているからです。
井戸も同じです。何かあった時に、スイッチ一つで確実に水が出る。それが地域の人の命を救うんです。だから私たちは、行政や顧客に対して「掘った後の管理」の重要性を口酸っぱくして言います。それがプロとしての責任ですから。

Q:今後のハギ・ボーが目指すべき未来、展望を教えてください。
A:ハギ・ボーが目指すのは、新規掘削にとどまらない「維持管理」へのシフトです。膨大な既存の井戸や温泉設備を守り抜き、インフラを絶対に止めない徹底した管理こそが、これからの企業の核心的価値となります。同時に、長年の実地データに基づく「水と熱のコンサルティング」も強化して単に掘削を勧めるのではなく、リスク評価や試験運用を含め、顧客の利益に真摯に寄り添います。私たちは山梨の地質を熟知した「第一県民者」としての誇りを持ち、机上の空論ではない現場の実証データで地域社会に貢献します。
確かな技術を次代へ継承し、これからも山梨の足元から人々の安心と夢を支え続ける
企業でありたいと考えています。

偏見を捨てて飛び込んでほしい「面白がれる」人間が勝つ

今の若い人たちは、どうしても「見栄え」や「イメージ」で仕事を選びがちですよね。土木や掘削なんて言うと「3K」だとか思われるかもしれない。でも、食わず嫌いはもったいないですよ。 私が20歳の頃、周りから「おい、井戸屋!」なんて馬鹿にされたこともありました。悔しかったですよ。でもね、井戸屋だろうが何だろうが、その仕事を極めて、社会に必要とされれば、誰よりも胸を張れるんです。
大切なのは「自分の目で見て、やってみて、面白いと思えるかどうか」もしやってみて面白くなければ辞めればいい。まずは飛び込んでみてほしい。そして学歴も国籍も関係なく「人間」として対等に勝負してください。

Profile

萩原 利樹 Toshiki Hagiwara

株式会社ハギ・ボー

19歳でボーリング業界に入り、東京での修行を経て山梨へ帰郷。 独立後、地質調査や温泉・地下水開発で県内屈指の実績を築く。 演劇やボランティア活動にも精を出し、多角的な視点から「環境とインフラ」の共存を提唱している。

https://www.hagibor.co.jp/

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