長澤 重俊
株式会社はくばく
堀内 信 Makoto Horiuchi
創業から75年以上。山梨県に根を張る丸市倉庫株式会社は、製糸業から倉庫業へと業態転換を果たした1949年から、時代の変化に合わせて進化を続けてきました。現在は倉庫業・物流業に加え、現場データを活用した物流DXの企画・開発にも力を注いでいます。その根底にあるのは、代表取締役社長の堀内信さんが掲げるのは「真心をカタチに」という理念と、「フェアネス物流」という考え方。それは、誰かが我慢することで成り立つ物流ではなく、データと仕組みで因果関係を可視化し、一貫性と公正さをもって評価できる物流です。「真心をカタチに」という経営理念のもと、現在はPAS(国際標準仕様書)として、世界に向けて開いていくことを目標に掲げています。
Q:丸市倉庫の歴史について教えてください。
A(堀内さん):当社のルーツは、私の曽祖父の代まで遡ります。大正時代、山梨はぶどう畑ではなく、あたり一面が桑畑でした。曽祖父はその土地で製糸業を営んでいたんです。しかし時代は移り、製糸業は斜陽産業となります。昭和24年、繭を保管していた建物を倉庫へ転用し、丸市は倉庫業へと転身しました。
この「業態転換」は、単なる事業変更ではありません。時流に適合しなければ、仕事は続かないということを、先代たちは身をもって理解していたんだと思います。
二代目である父は、東京芸術大学の油絵専攻という異色の経歴でした。物流のプロではありません。それでも父は、新しいことを恐れませんでした。当時の山梨では珍しかったオフコンの導入にもいち早く挑戦しました。芸術とは、「自ら構想し、意味づけし、形にすること」。その感覚が、父の仕事の原点にあったんだと思います。
Q:堀内社長ご自身が家業を継がれた経緯を教えてください。
A:大学卒業後、物流の基礎を学ぶために寺田倉庫に入社しました。通販物流、不動産営業、サブリース事業など、本当にさまざまな仕事を経験させてもらいました。
そこで社会人としての基礎を徹底的に叩き込まれました。特に印象に残っているのは、社長面談で「御社のために頑張ります!」と言った瞬間、鋭い視線で睨まれ、「偽善者だね。あなたの成長のために頑張りなさい。そうすれば、会社も成長できるから」と言われたことです。この一言で、働く意味が根本から書き換えられました。
1995年に丸市倉庫に入社しましたが、正直、歓迎されているとは言えない状況でした。現場ではユニフォームを脱ぎ捨て、無言で去っていく社員の姿もありました。会話のない会社、空気が重く、活力がない。でも、現場に入り、仕事が少しずつ分かるようになると、景色が変わり始めました。社員が一番嫌がる仕事を自分が率先してやることで、少しずつ信頼が生まれていったんです。
Q:丸市倉庫の最大の強みは何ですか?
A:よく「御社の強みは何ですか」と聞かれるんですが、設備でも資本でもありません。私たちの最大の強みは、「この考え方を理解し、理屈ではなく現実の中で一緒に直してきてくれる人材がいること」です。
物流の課題というのは、机の上では絶対に解決しないんですよ。現場には、前例、慣習、立場、感情、時間制約、そして「本当はおかしいと分かっているけれど変えられない」現実がある。こうしたものが複雑に絡み合っているんです。
私たちは、その現実から目をそらさず、一つひとつ、現場で起きている問題と向き合ってきました。その過程で、一緒に考え、一緒に悩み、一緒に直してくれる人材が育っていったんです。これは、簡単に真似できるものではないと思っています。
Q:「フェアネス物流」という考え方について教えてください。
A:取り組みを深める中で、一つの課題に直面しました。それは「正しくやっている人ほど報われにくい構造」が、物流業界全体に存在しているという現実です。無理な前提条件、曖昧な指示、後出しの判断。そうしたものが積み重なり、「誰が悪いのか分からないまま、現場だけが疲弊する」という状況が起きていました。
これは努力や根性の問題ではありません。「評価の基準がなく、因果関係が見えないこと」が原因だと気づきました。そこで私たちは、「フェアネス物流」という考え方にたどり着きます。何が起きたのか、なぜ起きたのか、どの判断がどこに影響したのかを「データと仕組みで可視化」し、一貫性と公正さをもって評価できる物流です。
重要なのは、「公平に扱うこと」ではなく、「説明できる判断を積み重ねること」。前提が間違っているなら、商品設計から、規格から、プロセスから、すべて作り直す。それが、真心をカタチにするということだと考えています。
Q:今後の展望について教えてください。
A:私たちが目指しているのは、自社だけが成長することではありません。これまで物流DXに取り組む中で、「この考え方は、物流業界だけのものではない」という確信を持つようになりました。
だから私たちは、この考え方を自社ノウハウとして囲い込むのではなく、PAS(国際標準仕様書)として整理して公開し、誰もが使える形にしていきたいと考えています。特定の会社や国だけが得をする仕組みではなく、業界や立場を超えて、「どうすれば分かり合えるか」「どうすれば無理なく続けられるか」を共有できる共通言語をつくる。
物流は、社会の血流のような存在です。ここが滞れば、経済も、暮らしも、心も疲弊します。だからこそ、フェアで、持続可能で、説明できる仕組みが必要です。山梨に根を張りながら、現場を大切にし続け、一つひとつの仕事を誠実に積み重ねる。同時に、その現場から生まれた思想を、世界に向けて開いていく。それが、丸市倉庫が掲げるこれからの目標です。
全国規模の配送は、電話や調整が中心で多くの人手が必要でした。私たちは物流のルールを整理してITに組み込み、やる仕事・やらない仕事を決めたことで、少人数で運営可能な仕組みにしました。だから、やりたいと思えば、大手物流会社ではなくても、プロセスを理解すれば中小企業でもできるんです。
若い人たちに伝えたいのは、「やりたいと思ったら、人生の時間が尽きる前に、すぐやれ」ということです。
失敗しても、たいていはなんとかなります。命までは取られません。
そして今の私の目標は、自分たちが培ってきた品質保証の仕組みを、国際規格(ISO)レベルに引き上げることです。
石川県の会宝産業さんが、中古エンジン評価の国際的な仕組みづくりを通じて、世界規模の循環型社会に貢献しているように。
だから私も挑みます。
私が目指すのは、「物流業界のフェアネスOS」です。
それは、荷主も運送会社もドライバーも、誰かが無理をかぶるのではなく、ルールとデータで“公平に回る”ための共通の仕組みです。
物流の地位を高め、真面目に働く人がきちんと報われる世界をつくる。
そのために、私たちのノウハウを誰もが模倣できる形で標準化し、公開していきたいと思っています。
私はそのファーストペンギンでありたい。
堀内 信 Makoto Horiuchi
丸市倉庫株式会社
1993年に寺田倉庫へ入社後、1995年より丸市倉庫に参画。物流・倉庫業の現場と経営に携わり、業界の変化や課題に向き合ってきた。地域と人の幸せを原点に、物流を「デザイン」する視点で、人材開発と物流DXを推進している。
https://www.souko.co.jp/